不動産屋でもなく、不動産鑑定士でもなく、都市計画の学者や担当者でもない人が良くこんなことを言った。「オリンピックの後は不動産が下がるよ。」
実際はどうだったのだろうか。
住宅ジャーナリストやコメンテーターの意見は正しかったのだろうか。
2021年の中古マンション市場をみてみよう。
((公財)東日本不動産流通機構 令和3年 12月度マーケットウォッチより)
御覧の通り、首都圏では中古マンションは下がっていない。タワマンの価格暴落もなければ、空室によってマンションの管理組合が破綻する等のオリンピック後に起きると言われていることは起きていないようである。これは不動産価格が、オリンピックというイベントによって決定されるのではなく、インフラ整備等の再開発とインバウンドによる観光需要の増大、そして外的要因である金融政策等に影響を受けるからである。
そもそも夏季オリンピック後に不動産価格が下がると言われたのはなぜだろうか。他のオリンピックが行われているデータを見てみよう。2018年にみずほ総研が発表したデータがこちらである。
(みずほ総合研究所 2018年 不動産の転換地点はどこにあるのかより抜粋)
他の開催地でも不動産価格が下落している例は見られなかった。
ではなぜ、日本の不動産、東京だけが価値が下がると言われていたのか。
それは前東京大会後に起きた不況が原因である。昭和39年後半~40年にかけ、「昭和40年不況(別名:証券不況)」と呼ばれる不況があった。高度経済成長を続けていた日本は、東京オリンピックや新幹線の整備などがもたらす好景気により、株式や国債などの証券市場が成長し、投資マネーは加熱し、その加熱した経済を引き締めるべく、政府は金融引き締めを行ったのだ。その引き締め政策により、日本は不況に陥り、不動産価格も下落した。
こうした経験から、オリンピックが終わると不景気なると噂されていたのだ。昭和38年、今から59年前である。
我々の生活や経済は大きく変わってきた。大切なのは、知っていそうな人ではなく、データをよく見て、調べることである。
オリンピックと不動産価格の下落の記事をいくつか読んだが、明確な根拠のようなものはなかったように思われる。意見に左右されるのではなく、正しい情報収集が必要である。